4.札幌市営地下鉄のJRとの相互乗入れに関する経緯
札幌市営地下鉄の建設が始まった当初は,地方都市並みの運行状況の日本国有鉄道(国鉄)と通勤・通学輸送を目的とした札幌市営地下鉄との間では,鉄軌道方式による相互乗り入れの可能性は低かったと考えられます。しかし,国鉄分割民営化と前後して,民営化直前の国鉄や民営化したJR北海道は札幌近郊輸送を重視するようになり,列車の大幅な増発や駅の増設,函館本線の高架化や札沼線(学園都市線)の複線高架化を行いました。その結果,現在ではJRも通勤・通学路線としての役割を担う状況となっています。しかし,JRと札幌市営地下鉄とは必ずしも有機的に結びついているとは言えず,両者の乗換に利用者は不便を感じています。つまり,利用者には乗換の抵抗が大きいと言えます。そこで,札幌市の活性化や更なる通勤・通学の利便性を高めるためには,JRと札幌市営地下鉄との相互連携や相互乗入れが重要となってきます。
JRと札幌市営地下鉄との相互乗り入れについては,1995年から札幌市とJR北海道との間で設置した「JRと地下鉄連携に関する研究会」により検討が行われ,(財)鉄道総合技術研究所に調査を委託していました。その調査報告書では「両軌道に対応できる車両を開発する案が有力で,技術的には可能」としています。
提案された車両は,パリ地下鉄(図6)の車両を参考にしたものです。パリ地下鉄の軌道は,一般的な軌道にみられる2本の金属レールがあり,その外側にゴムタイヤ用の専用走路と案内軌条が敷設されています。車両の台車には,図7に示すように,内側に金属車輪があり,その同軸外側にゴムタイヤ車輪と,四隅にも小径のゴムタイヤ案内輪が備わっています。
金属車輪と軌道の金属レールは,主として列車の進路を誘導させる案内軌条の役割を持っていて,金属車輪の外側同軸にあるゴムタイヤ車輪が走行のための駆動・停止と主な車体荷重を受け止める役割も担っています。また,この車体台車の四隅にも水平に回転するよう取り付けられた小径のゴムタイヤ車輪は,軌道両側の最外縁に垂直に設置された両サイドの案内軌条に接して,補助の案内装置として働いています。
案では,パリ地下鉄の台車を参考にして,JR軌道走行時と地下鉄走行時の切り替えは,ゴムタイヤを上下することにより行い,JR走行時は金属車輪で車体荷重を受け持ち,地下鉄走行時にはゴムタイヤで車体荷重を受け持つ構造とするものです。しかし,その開発費は数百億円から1,000億円程度に上るとのことで,その後,札幌市総合交通対策調査審議会にて,採算を理由に見送られています。
札幌市総合交通対策調査審議会は,市長の諮問に応じ,札幌市における将来の交通体系の基本計画,その他の都市交通の円滑化の促進に関する総合的施策について調査・審議するためのもので,学識経験者,交通事業関係者,関係行政機関の職員,その他市民のうちから市長が委嘱した委員で構成されています。なお,北海道運輸局には,北海道運輸局の業務のうち重要な事項について調査・審議をする北海道地方交通審議会があり,今後10年間の北海道における公共交通施策のあり方を提言しています。